2013年11月10日

オランダ病〜資源国の落とし穴〜

オランダが資源国というのはあまりピンと来ないかもしれませんが、北部ヨーロッパには大きな油田があります。北海油田です。北海油田と言えばノルウェーやイギリスが有名ですが、オランダやデンマーク、ドイツなどの北海沿岸国でも油田開発がされています。但し、オランダの場合は、石油ではなく、天然ガスが中心です。
北海地域での石油・天然ガスの採掘は1960年代に始まります。1960年にイギリスが開発を初め、同時期にオランダでも天然ガスの採掘がはじまります。そして、1970年代に”オイルショック”が起き、化石燃料の価格が高騰、オランダは莫大な資源による収入を手に入れます。
ところが、これが国を”堕落”させました。莫大なお金を手に入れたオランダ政府は、それを原資に、福祉を充実させました。現在の産油国と同じです。しかし、外貨収入が大きくなると、その国の通貨価値は増価、つまり、通貨高(オランダの通貨はギルダーでしたので、ギルダー高)になります。輸出全盛期の日本がどんどん円高になったのと同じ原理です。
通貨高になると、ご存じのとおり、輸出産業は打撃を受けます。天然ガス開発の”鉱業”はオイルショック時の価格高騰により潤いましたが、石油を消費する上に通貨高となってしまった製造業などの”工業”は大きな痛手となりました。製造業は多くの雇用を生みます。その製造業が衰退してしまったオランダでは、失業率がどんどん上昇しました。
製造業の衰退とともに、税収も下がり、オイルマネーで構築した高度な社会福祉制度はオランダの財政の重荷となりました。民主主義社会においては、国民にとってプラスとなる社会福祉の充実は簡単にできますが、国民にとってマイナスとなる社会福祉のレベルを下げる政策は極めて難しいのです。
財政難の結果、結局オランダは増税に踏み切るわけですが、それでさらに産業が冷え込み、オランダは低成長・高失業率の大不況に突入します。1980年代初頭には、マイナス成長×失業率14%という目も当てられない状況になっていました。これが、いわゆる「オランダ病」です。オイルマネーにより、オランダの製造業が没落した現象です。

そういう意味では、日本は資源がないからこそ、工業を順調に発展させることができたとも言えなくもないかもしれません。オイルマネーのような”あぶく銭”では、人間は堕落してしまうということです。ただ、結局は、日本も工業製品を輸出しすぎて円高となり、自国内での生産が苦しくなり、海外への工場移転などで、国内の工業は不況に陥ってしまうのですが。

では、今の産油国はどうでしょう。同じ現象が起きているのでしょうか。
勿論、「オランダ病」という用語があるように、実際に同じようなケースが散見されています。資源依存によりそのほかの産業が衰退したケースは、先進国でも途上国でもいくつか見られます。
ただ、いわゆる”産油国”の国々では少し状況が違います。たとえば、中東諸国やブルネイのような国です。これらの国は、ほとんど石油だけで国を成り立たせている、といっても過言ではありません。彼らは国の規模がそもそも小さく、衰退する”工業”がもともとないので、オランダ病にはかかりようがないのです。ただ、高福祉を持続するために、産油量(資源価格)のコントロールや海外への投資(これによって自国通貨の増加は免れます)を積極的に行っています。
ただ、これらの国々は、資源があることにより製造業が発展していない国なのです。しかも、資源により通貨は増価しており、人件費は極めて高く、いまさら工業を発展させることは難しいのです。これも一種の「オランダ病」と言えるのかもしれません。
一方、普通のオランダ病にかかりかけている国もあります。新興国×資源国、先進国×資源国と呼ばれている国々です。ロシアやオーストラリアがいい例かもしれません。両国とも豊富な資源を持つ国で、中国の台頭してきた2000年代以降、その恩恵を受けてきました。しかし、今では景気の潮目が変わり、両国は資源依存からの脱却のため、産業構造の改革を急いでいます。

資源に依存するのは危険なのです。資源依存の経済にはいくつかの課題があります。資源というのは無尽蔵に出てくるものではなく、そこにある分しか出てきません。油田や鉱山が枯渇する例はたくさんあります。また、時代の変化により、必要とする資源が変化します。また、中国のレアメタルのように、代替するものが出てくると、使われなくなってしまいます。シェールガスやメタンハイドレートなどの新しい産出方法の開発も影響してきます。紛争や世界経済の変動も、資源価格に大きく影響します。不安定な資源価格に国の経済が依存しているのはあまり良いことではないのです。

それが分かっていながら、人間は弱いので、安易に資源に頼りがちなのです。


ちなみに、オランダはいかにオランダ病から”回復”したのでしょうか。

オランダの景気打開策は、「ワークシェア」でした。政府の支援により労使間で結ばれた、「ワッセナー合意」と呼ばれる取り決めです。労働者側は賃金削減を受け入れ、使用者側は雇用者数の増加を受け入れ、政府は減税を受け入れ、国民は社会保障給付の削減を受け入れました。
賃金削減+雇用者増価のために、フルタイム労働者とパートタイム労働者間の差別を禁止し、その間の移動を促進させました。労働者側が、自身の労働時間をある程度決める権利を持ったのです。この改革は公務員にも適用され、オランダでは公務員にもパートタイム労働者の割合が高くなっています。この改革により、週4日勤務や時短勤務が一般化し、雇用者数は増加、失業率の低下し、経済が良い方向に回り始めました。

オランダ病からの回復は、逆に”オランダの奇跡”などとも呼ばれているようです。


posted by new_world2 at 13:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 地理や経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。